会社のキャッシュ

分社化・事業仕分けで会社のキャッシュを最大化する方法

会社の手取り最大化診断|編集部

売上も利益も出ているのに、なぜか会社にお金が残らない。そう感じている社長は少なくありません。その原因のひとつが、「すべての事業を1つの器(1つの会社)に詰め込んでいる」ことにある場合があります。事業をいくつかの器に分けて整理する「分社化」や「事業の仕分け」は、税金・社会保険料・消費税といったお金の流れを見直すきっかけになる考え方です。この記事では、その基本的な仕組みと、やってはいけない注意点をあわせて解説します。

なぜ「事業を分ける」とお金の残り方が変わるのか

会社にかかる税金や保険料は、「利益や売上がどの器に、いくら乗っているか」で計算されます。同じ合計利益でも、1つの会社に集中しているのか、2つの会社に分かれているのか、あるいは法人と個人事業に分かれているのかによって、適用される計算の区分が変わることがあります。

たとえば法人税には、一般に、中小法人の所得のうち一定額以下の部分に低めの税率が適用される仕組みがあります。1社に利益が集中していると高い税率区分にかかる部分が大きくなりますが、実態のある2つの会社に利益が分かれていれば、それぞれで低い税率区分の恩恵を受けられる可能性があります(税率や区分の最新の取り扱いは、必ずしも過去と同じとは限らないため、専門家にご確認ください)。

イメージ:利益の「乗せ方」で計算区分が変わる
Before:1社に利益を集中 利益が全額1社に乗るため、高い税率区分にかかる部分が大きくなりやすい。優遇制度の枠も1社分しか使えない。
After:実態のある2社に分散 それぞれの会社で低い税率区分や優遇制度の枠を活用できる可能性がある。事業ごとの採算も見えやすくなる。

もちろん、これは「分ければ自動的に得をする」という話ではありません。後述するとおり、分けるだけの事業実態がなければ意味がなく、かえってリスクになります。まずは「器の分け方でお金の流れが変わり得る」という構造を知ることが出発点です。

分社化で期待できる3つの効果

事業に実態があることを前提に、分社化には一般に次のような効果が期待できるといわれます。

  • 法人税の負担構造の見直し:利益を複数の会社に分けることで、低い税率区分を各社で活用できる可能性があります。
  • 消費税の負担の見直し:一般に、新しく設立した会社や売上規模の小さい事業者には、一定の条件のもとで消費税の納税義務が免除される制度があります。売上の帰属先が変わることで、消費税の負担が変わるケースがあります(インボイス制度の導入などで取り扱いが大きく変わっている分野のため、最新の条件は専門家にご確認ください)。
  • 優遇制度の「枠」が会社ごとに使える:たとえば共済制度への加入枠、交際費の損金算入の枠、少額資産の特例など、「1社あたり」で上限が決まっている制度は、会社が2つあればそれぞれで使える可能性があります。役員退職金も、それぞれの会社の職務実態に応じて支給を検討できます。
例:課税所得を2社に分けた場合のイメージ(あくまで例示)
分社化前分社化後
A社の課税所得例:1,000万円例:500万円
B社の課税所得――例:500万円
税負担のイメージ高い税率区分にかかる部分が発生各社とも低い税率区分の範囲に収まる可能性

※金額はあくまで説明用の例です。実際の税額は事業内容・所得の状況・その時点の制度により変わります。最新の取り扱いは税理士にご確認ください。

どうやって分ける?代表的な分け方と「業務委託法人」

「分社化といっても、うちの事業は分けようがない」と感じる方も多いのですが、オーナー企業であれば分け方の切り口はいくつも考えられます。代表的なものを整理すると次のとおりです。

分け方の切り口
商品・サービス別物販部門と保守サービス部門を別会社にする
取引先別法人向け取引と一般消費者向け取引を分ける
拠点・支店別本店と支店をそれぞれ独立した会社にする
新規事業これから始める事業を最初から別会社で立ち上げる
周辺業務経理・庶務・研修などの業務を受託する会社を設ける

このうち、どのような業種でも検討しやすいといわれるのが、最後の「周辺業務を受託する会社」、いわゆる業務委託法人です。本体の会社が行っている業務のうち、たとえば文書の作成・整理、電話応対、金銭の出納や経理事務、社員教育・研修といった周辺業務を、新しく設立した会社に有償で委託する形です。

ここで重要なのは、形式と実質の両方を整えることです。同じ社長が2つの会社の代表を兼ねる場合でも、会社間で業務委託契約書をきちんと交わし(形式基準)、委託した業務が実際に行われ、その対価が適正な金額で支払われ、資金の流れも2社で明確に分かれている(実質基準)ことが求められます。「契約書だけ作って実際は何もしていない」という状態では、税務調査で否認されるリスクが高くなります。

「法人」と「個人事業」に仕分けるという選択肢

分社化とあわせて知っておきたいのが、事業の一部を「社長の個人事業」として切り分ける方法です。法人と個人は法律上の人格が異なるため、法人事業と個人事業を並行して営むこと自体は珍しいことではありません。たとえば、会社ではA部門の事業を行い、社長個人はB部門の事業を個人事業として行う、という形です。

この形の特徴は、社会保険料の考え方にあります。社会保険料は一般に、会社から受け取る役員報酬をもとに計算されます。一方、個人事業の所得はその計算の対象外です。そのため、役員報酬と個人事業所得のバランスの取り方によって、社会保険料の負担が変わってくる可能性があります。

ポイント:報酬の「受け取り方の設計」の問題 これは保険料を不正に免れる話ではなく、「どの事業から、どの形で収入を受け取るか」という設計の問題です。ただし、社会保険料を抑えれば将来の年金額にも影響し得ます。削減分を自分で積み立てるなど、老後資金とセットで考えることが大切です。制度の細かい取り扱いは社会保険労務士等にご確認ください。

やってはいけない「形だけの分社化」

ここまで読むと「では早速分けよう」と思われるかもしれませんが、一番大事なのはここからです。節税や保険料削減だけを目的にした、実態のない形だけの分社化・事業仕分けは、税務上否認されるリスクがあり、場合によっては脱税行為とみなされるおそれもあります。

  • 同じ業種・同じ業務内容での法人と個人の並立は、課税逃れと判断されやすいうえ、取締役の競業避止義務など会社法上の問題も生じ得ます。
  • お金の流れが分かれていないのは論外です。会社に入金された売上を個人事業の売上として計上するようなことは認められません。
  • 契約書や経理が一体のままでは、形式基準を満たしません。会社間で業務を委託するなら業務委託契約書を交わし、取引先との契約・売上管理・経理処理をそれぞれの器で明確に分ける必要があります。
認められやすい分け方・危ない分け方
危ない分け方 事業実態がなく帳簿上だけ分ける/同一業務を法人と個人で二重に営む/資金の流れや契約関係が混ざったまま
認められやすい分け方 商品別・取引先別・拠点別など実態に沿って分ける/契約書・請求・入金・経理を器ごとに独立させる/各社に果たすべき役割がある

コストと管理の手間も忘れずに天秤にかける

分社化にはコストもかかります。会社を1つ増やせば、設立時の登記費用に加えて、利益が出ていなくても発生する法人住民税の均等割、決算のための税理士報酬、経理や請求の管理といった維持コストが毎年かかります。事業規模が小さいうちに無理に分けると、節税効果よりも管理コストのほうが大きくなることもあり得ます。

  • 分けたい事業に、独立した売上・業務・管理の実態があるか
  • 期待できる効果(税・保険料・消費税)が、増える維持コストを上回りそうか
  • 分けた後の契約・経理・人の動きを、実際に回し続けられるか

この3点を紙に書き出して、税理士や社会保険労務士と一緒に検討するのが現実的な進め方です。事業の分け方は一度実行すると元に戻すのにも手間と費用がかかるため、思いつきで動くのではなく、いくつかの分け方のパターンで効果とコストを数字で比べるシミュレーションをしてから判断することをおすすめします。

まとめ:分社化は「節税テクニック」ではなく「事業の整理」 分社化・事業仕分けの本質は、事業の実態に合わせて器を整理することです。その結果として、税率区分・消費税・優遇制度の枠・社会保険料の面で効果が生まれる可能性がある、という順番で考えると失敗しにくくなります。まずは自社の事業を「分けられる単位」で棚卸ししてみてください。
ご注意 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・社会保険の判断を保証するものではありません。実行にあたっては、事業内容・契約状況・法人形態などにより結果が変わるため、税理士・社会保険労務士など専門家への確認をおすすめします。

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