役員報酬を下げれば税金は減りますが、手取りまで減っては意味がありません。そこで注目したいのが、社長個人が使える「所得控除」です。所得控除は、税金を計算する前の所得から差し引ける「枠」のこと。しかもこの枠は、その年に使わなければ翌年に繰り越せず、そのまま消えてしまいます。この記事では、小規模企業共済をはじめ、社長が活用しやすい控除枠と、資金拘束や受け取り方まで含めた判断のポイントを整理します。
所得控除は「使わないと消える枠」
所得控除とは、所得税を計算するときに、所得金額から差し引ける項目のことです。税率を掛ける前の金額を小さくできるので、控除の金額が大きいほど税負担は軽くなります。同じ役員報酬でも、控除枠をきちんと使っている社長と、まったく使っていない社長とでは、手元に残るお金に差が出るわけです。
大切なのは、所得控除が「毎年リセットされる枠」だという点です。今年使わなかった控除枠を、来年にまとめて使うことはできません。つまり、使わなかった枠はその年限りで消えてしまいます。だからこそ、自分に使える枠を漏れなく把握し、毎年きちんと使い切る意識が手取りを増やす近道になります。
所得控除には、社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除・生命保険料控除・地震保険料控除・寄附金控除・医療費控除・配偶者控除・扶養控除・基礎控除など、多くの種類があります。この中で、社長が自分の意思で「使うかどうかを選べる」代表的なものが、次の4つです。
- 小規模企業共済等掛金控除(小規模企業共済・iDeCo)
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除(ふるさと納税など)
柱になるのは小規模企業共済
社長が使える控除枠の中で、まず検討したいのが小規模企業共済です。中小機構が運営する、小規模企業の役員や個人事業主のための退職金制度で、掛金は月1,000円から7万円の範囲で自由に設定でき、途中での増減もできます。
この制度の大きな魅力は、掛金の全額が所得控除の対象になることです。単純な利回りだけを見れば、他にも魅力的な金融商品はあるかもしれません。しかし小規模企業共済は「積み立てながら、掛金と同じ金額だけ所得を圧縮できる」点が違います。例えば、一般に課税所得が数百万円ある方が月数万円の掛金で加入すると、年間で十数万円規模の税負担が軽くなるケースがあるといわれます(実際の効果は所得や掛金によって変わるため、最新の取り扱いは専門家にご確認ください)。
加入できるのは、業種にもよりますが従業員数が一定以下(一般に20人以下、卸売業・小売業・サービス業などでは5人以下とされます)の会社の役員などです。この人数要件は加入時点のものなので、加入後に従業員が増えても継続できるとされています。将来会社が大きくなる可能性があるなら、条件を満たしているうちに少額でも加入しておくという考え方もあります。
iDeCo(個人型確定拠出年金)との使い分け
小規模企業共済と同じ控除枠(小規模企業共済「等」掛金控除)に含まれるのが、iDeCo(個人型確定拠出年金)です。こちらも掛金は全額所得控除の対象で、運用中の運用益が非課税になるなどの税制上のメリットがあります。
ただし、性格はかなり違います。両者の主な違いを整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | 小規模企業共済 | iDeCo |
|---|---|---|
| お金の性格 | 退職金の準備 | 老後の年金の準備 |
| 運用リスク | 制度側の予定利率で運用(元本割れリスクは小さめ) | 運用次第で増減(投資リスクあり) |
| 受け取り時期 | 退任・解約など事由に応じて(任意解約も可) | 原則60歳以降まで引き出せない |
| いざという時 | 掛金の範囲での貸付制度あり | 貸付制度なし |
注目したいのは「いざという時の自由度」です。小規模企業共済には契約者貸付の仕組みがあり、資金繰りが苦しい局面で掛金を担保にお金を借りられる余地があります。一方、iDeCoは原則60歳まで引き出せないため、資金が長期間固定されます。経営者にとって手元資金の自由度は生命線ですから、一般には「まず小規模企業共済、余裕があればiDeCoを上乗せ」という順番が考えやすいでしょう。掛金の上限額や制度の細部は変わることがあるため、最新の取り扱いは専門家にご確認ください。
生命保険料控除・地震保険料控除も忘れずに
生命保険料控除は、多くの社長が「入りすぎ」か「枠の使い残し」のどちらかになりやすい控除です。生命保険料控除には上限があり、一定額を超えて個人で保険料を払っても、控除額はそれ以上増えません。つまり、個人で高額な保険にたくさん入っても、控除の面では頭打ちになるということです。
考え方としては、個人では控除枠が活きる範囲で加入し、それを超える保障は会社側での加入を検討する、という整理がすっきりします。また、生命保険料控除は一般の生命保険・介護医療保険・個人年金保険といった区分ごとに枠が分かれています。一般の生命保険の枠だけ使って、介護医療や個人年金の枠が空いたまま、というケースは少なくありません。
あわせて、自宅の地震保険に加入している場合は地震保険料控除の対象になります。すでに払っている保険料が控除の対象になっていないか、年末調整や確定申告で申告漏れがないかを一度確認してみてください。
ふるさと納税(寄附金控除)は実質負担を抑えて活用
寄附金控除の代表例が、ふるさと納税です。仕組みとしては、応援したい自治体に寄附をすると、一般に自己負担2,000円を除いた寄附額が、所得税の還付や住民税の減額という形で戻ってくるとされる制度です。加えて、自治体から特産品などの返礼品を受け取れます。
流れはシンプルです。
- 自治体を選んで寄附する
- 返礼品と寄附の証明書類が届く
- 確定申告(または所定の手続き)で申告する
- 翌年の税金が軽くなる形で反映される
ここで注意したいのが上限額です。ふるさと納税には、所得や家族構成に応じて「全額控除の対象になる寄附額の目安」があり、それを超えて寄附した分は自己負担が増えていきます。上限の目安は総務省のポータルサイトなどで確認できますが、役員報酬の額や他の控除との兼ね合いで変わるため、金額が大きくなる場合は専門家に確認しながら進めるのが安心です。
資金拘束と出口まで含めて「使う順番」を決める
控除枠は使えば使うほど税負担が軽くなりますが、多くの控除は「お金を払う」ことが前提です。つまり、節税と引き換えに手元資金が減ったり、長期間動かせなくなったりする面があります。だからこそ、節税額だけでなく、次の3点をセットで考えることが大切です。
- 資金拘束の度合い:そのお金はいつまで動かせないのか。急に必要になったとき取り出せるのか
- 出口の税金:受け取るときに退職所得扱いになるのか、年金扱いになるのか。出口の課税まで含めて有利かどうか
- 優先順位:自由度の高いものから使い、余裕資金の範囲で拘束の強いものを上乗せする
例えば小規模企業共済は、一括で受け取れば一般に退職所得として扱われ、分割なら公的年金等の雑所得として扱われるとされるなど、受け取り方によって税金のかかり方が変わります。入口の控除だけでなく、出口の受け取り方まで設計して、はじめて「控除枠の最大活用」といえます。
まずは、ご自身が今年どの控除枠をいくら使っていて、どの枠が空いたまま消えようとしているのかを棚卸しすることから始めてみてください。そのうえで、無理のない掛金設定と受け取りの出口まで含めた計画を、専門家と一緒に確認していくことをおすすめします。