会社と個人のお金

役員借入金の返済で手取りを増やす|給与でも配当でもないお金の受け取り方

会社の手取り最大化診断|編集部

「社長が会社にお金を貸したまま、何年も放置している」。オーナー企業では珍しくない光景です。創業時の運転資金や、資金繰りが苦しい月の立て替えなど、社長のポケットマネーが会社に入ったまま、帳簿の「役員借入金」に残り続けているケースは少なくありません。実はこの役員借入金、見方を変えると「給与でも配当でもない、税金・社会保険料のかからないお金の受け取り方」になり得ます。この記事では、その仕組みと注意点、放置した場合のリスクまでを日常語で解説します。

役員借入金とは何か?──社長が会社に貸しているお金

役員借入金とは、社長(役員)から会社にお金を貸し付けている状態のことです。会社側から見ると「借りているお金」なので、貸借対照表では負債の部に「役員借入金」や「役員からの借入」として計上されます。

発生の経緯は、たとえば次のようなものが典型です。

  • 創業当初、資本金だけでは足りず、社長が個人のお金を運転資金として入れた
  • 売上の入金より支払いが先に来る月に、社長が個人口座から立て替えた
  • 役員報酬を設定したものの、資金繰りの都合で一部を実際には受け取らず、未払い分が借入金に振り替わった

いずれも「会社を守るために社長が身銭を切った」結果です。つまり役員借入金の残高は、本来なら社長が会社から返してもらってよいお金だということです。ここが出発点になります。

混同しやすい「役員貸付金」との違い 役員借入金の逆で、会社が社長にお金を貸している状態は「役員貸付金」と呼ばれます。役員貸付金は、一般に会社側で利息の計上が求められたり、金融機関の融資審査で問題視されたりと、扱いの厳しい項目です。一方の役員借入金は、社長が会社からお金を返してもらう側なので、性質がまったく異なります。この記事で扱うのは「役員借入金」のほうです。

返済金は給与ではない──税金・社会保険料がかからない理由

社長が会社からお金を受け取る方法として、まず思い浮かぶのは役員報酬(給与)です。しかし給与には所得税・住民税がかかり、さらに社会保険料の負担もあります。受け取る額面が同じでも、手元に残る金額は差し引かれた後の分だけ目減りします。

一方、役員借入金の返済は「貸したお金を返してもらっている」だけです。もともと社長自身のお金が戻ってくるのですから、給与のような所得には当たらず、一般に税金も社会保険料もかかりません。ここに、給与でも配当でもない第三の受け取り方としての価値があります。

この性質を活かした考え方が、「役員報酬の一部を、役員借入金の返済に置き換える」というものです。たとえば、役員借入金の残高が十分にある社長が、役員報酬を一部減額し、その分を借入金の返済として受け取るとします。社長が毎月受け取る合計額は同じでも、給与部分が減った分だけ税金・社会保険料の計算対象が小さくなり、結果として手取りが増える余地が生まれます。会社側でも、報酬にかかる社会保険料の会社負担分が軽くなる方向に働きます。

受け取り方を変えるイメージ(金額はあくまで例です)
見直し前 役員報酬のみで受け取る
例:報酬900万円
→ 900万円全体に税金・社会保険料がかかる
見直し後 報酬+借入金の返済で受け取る
例:報酬700万円+返済200万円
→ 税金・社会保険料の対象は報酬700万円の部分だけ。返済200万円はそのまま受け取れる

実際にどの程度の効果が出るかは、報酬額・家族構成・他の所得などの条件によって大きく変わります。また、税や社会保険の取り扱いは改正されることがあるため、最新の取り扱いは税理士など専門家に確認したうえで進めることをおすすめします。

実行前に押さえたい前提──帳簿残高と「貸した事実」の整合

この方法の土台になるのは、「役員借入金が実在するお金の貸し借りである」ことです。帳簿に残高が載っているだけでは足りず、その残高が実際の貸付の積み重ねと一致していることが大切です。実行前に、次の点を確認しておきましょう。

  • 帳簿上の役員借入金残高と、実際に社長が会社に入れたお金の記録(通帳の振込履歴など)が対応しているか
  • いつ・いくら貸したのか、経緯を説明できる資料が残っているか
  • 金銭消費貸借契約書や取締役会の記録など、貸し借りの根拠となる書面が整っているか(無い場合は今からでも整備を検討する)
  • 返済の際は、給与とは別の振込として記録し、帳簿上も借入金の減少として処理されているか

特に、長年の細かい立て替えが積み重なっている場合、残高の中身を社長自身も説明できなくなっていることがあります。中身の不明な残高のまま返済だけを進めると、後から説明に困る場面が出かねません。まずは顧問税理士と一緒に残高の棚卸しをするのが安全な進め方です。

利息の受け取りという選択肢もある 役員借入金について、社長が会社から利息を受け取ることも一般には可能とされています。会社側では支払利息として経費になり、社長側では給与所得ではなく雑所得として扱われるのが一般的です。ただし、世間相場とかけ離れた高い利率を設定すると、超過分が給与や賞与とみなされるおそれが指摘されています。利率の設定は必ずしも単純ではないため、実行する場合は適正な水準を専門家に確認してからにしましょう。

返済計画の立て方──無理のない期間と金額に落とし込む

役員借入金の返済は、思い立ったら一括で、というものではありません。会社の資金繰りを圧迫しない範囲で、計画的に進めることが大切です。手順としては次のような流れが考えられます。

ステップやることポイント
1. 残高の確定帳簿残高と実際の貸付記録を突き合わせる説明できない残高は税理士と原因を調べる
2. 期間の設定何年かけて解消するかを決める(例えば5年など)会社の年間キャッシュフローと相談して決める
3. 年間返済額の決定残高÷期間で1年あたりの返済額を出す資金繰りが苦しい年は柔軟に見直せる設計に
4. 役員報酬の見直し返済額を踏まえて報酬水準を検討する報酬の変更は決められた時期・手続きに沿って行う
5. 実行と記録返済を実行し、帳簿と書面に残す給与と返済は分けて振り込み、区別を明確に

たとえば、残高が1,000万円あるなら「5年で毎年200万円ずつ」といった形に分割し、その期間だけ役員報酬の水準を見直す、という組み立てが一例です。返済が終われば借入金はなくなるため、その後の報酬水準をどうするかも、あらかじめ考えておくと慌てずに済みます。

なお、役員報酬の変更には会社法や税務上のルール(変更できる時期や手続きなど)があります。タイミングを誤ると思わぬ不利益につながることもあるため、ここも専門家と足並みをそろえて進めてください。

放置は禁物──役員借入金は相続財産になる

「会社と自分のサイフは一体だから、返してもらわなくても困らない」と考えて、役員借入金を放置している社長もいらっしゃいます。しかし、放置には見過ごせないリスクがあります。役員借入金は、社長から見れば「会社に対する貸付金」という立派な財産です。そのため、社長に万一のことがあった場合、この貸付金は相続財産として相続税の計算対象になるとされています。

ここで厄介なのは、会社にお金が残っておらず実際には回収が難しい貸付金であっても、原則として額面で財産評価される可能性がある点です。つまり「もらえる見込みの薄いお金に、相続税だけがかかる」という事態が起こり得ます。残されたご家族にとっては重い負担です。

  • 役員借入金の残高が大きい社長ほど、相続の際の影響も大きくなりやすい
  • 「会社が借金を帳消しにすればよい」と考えても、債務免除には会社側で法人税の課税が生じ得るとされ、単純には片づかない
  • 解消には年数がかかるため、気づいたときから早めに計画を始めるほど選択肢が広がる

言い換えれば、役員借入金の計画的な返済は「今の手取りを増やす」ことと「将来の相続の重荷を軽くする」ことを同時に進められる取り組みです。残高が膨らんでいる自覚のある社長ほど、後回しにせず着手する価値があります。

まとめ──「貸したお金を返してもらう」だけで景色が変わる

最後に、この記事のポイントを整理します。

  • 役員借入金は、社長が会社に貸しているお金。返してもらう権利のある、社長自身の財産である
  • その返済は給与ではないため、一般に税金・社会保険料がかからない受け取り方になる
  • 役員報酬の一部を返済に置き換えることで、受け取り総額を保ちながら手取りを増やせる余地がある
  • 前提として、帳簿残高と貸付の事実が書面で裏づけられていることが大切
  • 放置すると相続財産として課税対象になり得るため、計画的な解消が望ましい

効果の大きさや進め方は、会社の状況によって一社ごとに異なります。「うちの帳簿にも役員借入金があったはず」という社長は、まず残高がいくらあるのかを確認するところから始めてみてください。そのうえで、どのくらいの期間で、どう受け取っていくのが有利かを、税理士など専門家と一緒に設計していくのがおすすめです。

ご注意 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・社会保険の判断を保証するものではありません。実行にあたっては、事業内容・契約状況・法人形態などにより結果が変わるため、税理士・社会保険労務士など専門家への確認をおすすめします。

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